もうすぐ2月も終わり、東京ではもう春の気配がする頃でしょうか、僕の住んでいる地域はまだまだ冬真っ盛りです。
昨年2月、ロシアがウクライナに侵攻し、ちょうど1年程が経過しました。現代の日本に住んでいる我々には想像もつかないことですが、今現在世界では数え切れぬ数の戦争、紛争が起きているのが現状です。昨今日本でも防衛費を大幅に増額することが決定し、私たちを取り巻く日常は日に日に変化しています。
今回はそんな戦争をテーマにした作品をご紹介します。タイトルは『凍てつく太陽』(作:葉真中顕、幻冬舎)
太平洋戦争末期の北海道を舞台に、軍、警察、外国勢力の謀略が交差するミステリー・時代小説です。個人的に最近読んだ戦争小説の中でも特に印象深かった1冊です。
多少のネタバレを含みますのでご了承ください。
物語のあらすじ
舞台は太平洋戦争末期、昭和十九年の北海道、室蘭。特別高等警察(通称:特高)に所属する刑事・日崎八尋は、朝鮮人の脱獄囚を追う任務の最中、捜査に協力してくれた朝鮮人将校が殺害される事件に遭遇する。先輩刑事・三影や教官の能代と共に犯人の捜査に加わる八尋だが、次第に緊迫した戦況を逆転させるという陸軍の極秘作戦・カンナカムイを巡る陰謀に巻き込まれていく ー。
本作は歴史小説でもあり、ミステリー小説でもあります。
2つの魅力が楽しめますよ!
本作品の魅力
●作者の覚悟
まず怒られるかもしれませんが、この作品、人種差別的なセリフが数多く登場します。
先ほど紹介した主人公・日崎八尋は純粋な大和民族ではなく、父親が日本人、母親がアイヌのハーフであり、幼いころはアイヌの村で育ちました。また、日崎の相棒的ポジションとなる人物の呂永春(ヨヨンチュン、日本名:宮田永春)は朝鮮半島から日本へ働きに来ている朝鮮人、日崎の知り合いでありこの物語のキーマンとなる青年、畔木利一もまたアイヌの出身です。このように、日崎の周りの人物、特に日崎にとっての『仲間』には純粋な大和民族ではないキャラクターが数多く登場します。
最近のメディア作品って、SNSの眼が厳しいこともあり、かなりマイルドな作品が多いと思いませんか?戦争をテーマにした作品でも、人種差別的な描写を見かけることは少なくなってきたように感じます。しかし本作品には、差別的な表現、今の時代にSNSで呟こうものなら大炎上しそうな表現がたくさんあります。でもだからこそ、当時のリアルな価値観が他の作品より強烈に伝わってくるんですよね。そんな表現をあえて削らずに乗せた、作者の覚悟を感じる部分でもあります。
●サスペンス
先ほど紹介しましたが、この作品は戦争小説であると同時にサスペンス小説でもあります。
陸軍の軍事機密であるカンナカムイと、それを巡る連続殺人事件 ー。設定としては一般的で、よく見る連続殺人事件を追う展開なのですが、僕が個人的に一番びっくりしたのは犯人の正体です。ネタバレになってしまうのでここでは触れませんが、本当に予想外の人物ですので、物語の終盤までハラハラできること間違いなしです。
筆者はミステリー小説が大好きですが、この犯人は全く
予測できませんでした。(恥ずかしい・・・)
●民族とは何か
作中には深く考えさせられるようなセリフが数多く登場するのですが、特に重いのは「民族」という概念についてです。主人公の相棒である呂永春のセリフを一つご紹介すると、
「案外服みてえなもんかもしれねえよ、国だの民族だのってのは。裸で歩き回るわけにはいかないから、何か着ることは着る。でも、俺たちは服に着られてるわけじゃねえし、服の為に生きてるわけじゃねえ。」
皆さんはお気に入りの服はありますか?その服は今はとても大事でも、小さくなったり古くなったり、もっといい服が合ったら捨ててしまいませんか?国や民族もそんなものかもしれません。このように、考えさせられるセリフや描写がたくさん登場するので、是非考えて自分なりの答えを見つけてください。
まとめ
本作品は決して明るい話ではありません。しかし戦争、民族、国家などいつもは敬遠しがちな重いテーマを、サスペンス調で考えることが出来るという点において、この作品は非常にお勧めです。こんな時代だからこそ、凍てつく太陽を手にしてみてもよいのではないでしょうか。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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