【中国史最大の簒奪】叔父と甥の骨肉の                                            争いを描いた長編 『運命~二人の皇帝~』

時代劇

皆さんは古代中国にどのようなイメージを持っていますか?

(http://cmsres.dianzhenkeji.com/)より

高校の世界史の授業で学んで、「黄巾の乱」や「安史の乱」などの出来事に聞き覚えのある方もいらっしゃるでしょう。黄河流域に端を発した中華文明は、時と共に戦乱、飢饉、政変、異民族の侵略に悩まされながらも、長い目で見れば周辺国家や民族を吸収し続け、拡大を続けていきました。その長い時の間に中国大陸にはいくつもの王朝が成立し、中華の覇権を巡って争いが続いてきたのです。

今回紹介する『運命~二人の皇帝~』(文:田中芳樹、原作:幸田露伴、痛快世界の冒険文学)は、そんな歴代中華王朝の1つ、明の時代に起こった「靖難の変」と呼ばれる政変をテーマにした物語です。

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「靖難の変」って何?

「靖難の変」は明朝初期に時の皇帝、建文帝に対して、叔父の燕王 朱棣 (のちの永楽帝)が起こした政変、または内乱のことを指します(靖難の役とも呼ばれる)。建文帝は明の建国者洪武帝の孫にあたり、朱棣は洪武帝の息子であるため、二人は叔父と甥の関係になります。洪武帝亡き後、建文帝は朱棣をはじめとした各地域を治める洪武帝の息子たち、すなわち自分の叔父たちが帝位の簒奪を企てることを恐れ、重心と共に次々と叔父たちを亡き者としていきます。このことに対し朱棣は進化の助言もあって「やられる前にやってしまえ!」と挙兵し、「君難を靖んじる」(皇帝の周りの奸臣を除く)ことを大義名分とし、明の中央政府に戦いを挑みます。このことから、歴史上では「靖難の変」と呼ばれています。

物語のあらすじ

明王朝の始祖洪武帝は、自身の孫朱允炆(建文帝)の身を案じながら崩御した。跡を継いで即位した朱允炆は気弱な心優しい皇帝であったが、それゆえに斉泰や黄子澄などの重臣を抑えることが出来ず、各地の王たちの勢力を削る削藩政策を止められずにいた。燕の国(現在の北京付近)を統治する燕王 朱棣 は朝廷からの罠を躱し、「君難を靖んじる」ことを大義名分として明の中央政府に対して反乱を起こす。運命に翻弄される、2人の皇帝による争いの結末は ー 。

本作のポイント

ここからは、本作のポイントについて解説したいと思います。

●戦闘の迫力

『痛快世界の冒険文学』シリーズの特徴として、非常に緻密で正確な描写が挙げられます。この作品も例にもれず、漫画のような挿絵が無いにもかかわらずまるで頭の中に場面の構図がリアルに浮かんでくるような臨場感を味わえます。

それが特に表れているのが戦闘描写であり、戦闘時の展開の速さと緊張感は手に汗握る迫力です。戦闘機や戦車を用いた現代戦とは違う、鉄と馬と人間がぶつかり合う古代の戦争のバチバチな熱さを感じられるでしょう。

フィクシニア 書房
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初めて読んだとき、漫画『キングダム』を

読んでいるような緊張感と迫力を感じました。

古代中国の戦争は壮大さが桁違いですね。

●実際の歴史とのリンク

歴史小説の最大の面白さは、そのストーリーを実際の歴史と比較して、現実とフィクションとの違いを見つけるところにあると思います。

この物語は実際の歴史をベースとして作られているため、大筋は史実の通りですが史実と違う部分がいくつか登場します。例えば史実では戦後に行方不明(おそらくは永楽帝に殺された)になった建文帝がその後も生き延び、各地を放浪した後ある運命的な出会いをするという設定になっています。実際の歴史にはこんなことはなかったでしょうが、そんな”if”を想像できるのも物語の世界ならではです。

「事実は小説よりも奇なり」という言葉がありますが、歴史小説の面白さはそのようなところにあるのではないでしょうか。

●戦後の物語

前項でも少し触れましたが、この物語は靖難の変がテーマとなっているものの、物語はその後永楽帝即位から建文帝の放浪記、南海大航海で有名な宦官:鄭和の話、そして永楽帝死後のモンゴル族との闘いまで、靖難の変後の明の歴史についても触れています。

建文帝のその後については完全な創作でしょうが、鄭和の話やモンゴル族との戦争(土木の変)は史実として残っており、他の作品と読み比べてみるのもおもしろいでしょう。特に、戦後すぐに永楽帝は建文帝の側近:方向儒を親族から弟子に至るまで皆殺しにしてしまうシーンがあるのですが、史実でも永楽帝は建文帝陣営の大粛清を行ったと記録されています。この部分は本作でも最も悲劇的なシーンであるのですが、建文帝に対する鋼の忠誠心を持った方向儒と、征服者として絶対の自負をもつ永楽帝のせめぎあいは、本作のクライマックスの1つであると言ってもいいでしょう。

フィクシニア 書房
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喜劇より悲劇の方が心に残りやすい。

この作品はまさにそんな物語です。

まとめ

今回はいかがだったでしょうか?古代中国史は最近だと漫画『キングダム』が人気ということもあり世間の関心が高まっている分野なのではないでしょうか。春秋戦国時代や三国志の時代が有名ですが、中国大陸はその他にも数え切れない数の乱世を経験し、そのたびに後世の我々の胸を躍らせる熱い物語が生まれてきました。

この記事をきっかけに、中国史に興味を持つきっかけを作っていただければ幸いです。

フィクシニア 書房
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最後まで読んでいただきありがとうございました!

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